片耳難聴について「きこいろ」副代表 京都光華女子大学 高井小織先生に執筆いただきました。
高井小織
(言語聴覚士
京都光華女子大学医療福祉学科聴覚専攻准教授)
京都大学教育学部卒、立命館大学院応用人間科学修了。中学校難聴学級の担任経験がある。聴覚障害児者の言語運用、自己開示と自己権利擁護意識の発達についてなど、思春期以降の聴覚障害のある若者に関わる研究を続けている。原因不明だが、就学時健診で左耳が聞こえないことが分かった。
片耳難聴(一側性難聴)とは
片耳難聴(一側性難聴)とは、左右どちらかの耳の聴力は正常聴力、
もう一方の耳の聴力が難聴の状態のことです。
医学的には「一側性難聴(いっそくせい)」と呼びますが、
伝わりやすいので私たちは「片耳難聴」と呼んでいます。
*正常聴力:どの周波数も25dB未満である
*難 聴 :四分法で平均聴力25dB以上である
軽度難聴:25dB以上40dB未満
中等度難聴:40dB以上70dB未満
高度難聴:70dB以上90dB未満
重度難聴:90dB以上
※日本耳鼻咽喉科学会より
*「難聴」は医学的な分類場面でよく使われる用語です。
例:伝音難聴・感音難聴/軽度難聴・重度難聴など)
日本にいる片耳難聴児者は30万人以上と言われますが、正確な人数はわかりません。片耳が軽度難聴まで含めると、それよりもはるかに多い数になるでしょう。
以前は、幼少であれば本人も家族も気がつかず、小学校入学前の検診でみつかる例も多かったのですが、最近は、新生児聴覚スクリーニングが普及して超早期に発見されることも増えました。生まれつき片耳難聴の赤ちゃんの数は、両側難聴とほぼ同数であることがわかっています。生まれつき片耳難聴の原因として多いのは、蝸牛や聴神経の低形成や外耳道閉鎖(耳の穴が塞がった状態)、難聴遺伝子の関与が挙げられますが、原因がわからない場合も多いです。
子どもの頃に片耳難聴になる原因で有名なものは、おたふく風邪(ムンプスウイルス)の後遺症です。まれに両耳難聴になる場合もあります。片耳だけ中耳炎を繰り返して聴力が低下する場合もあります。
成人の片耳難聴の原因としては突発性難聴や聴神経腫瘍などが挙げられます。外傷によるものもあります。いずれにせよ、両耳難聴と同じだけの多様な原因や状態・程度があるので、投薬や手術などで治るものもあれば、治療の対象になりにくいものもあります。昔は兵役で向き合って右手でビンタを繰り返され、鼓膜が破れたままになった左耳難聴の男性がたくさんいました。
片耳難聴の特徴
片耳難聴は10年ほど前までは、一方の聴力が正常なのだから、問題ないとされてきましたが、実はいろいろな困難な場面があることも知られるようになってきました。代表的な特徴は以下の3つです。
●難聴側からの小さな声や音がきこえないことがある
●どこから音がきこえるか、方向がわからない(音源定位ができない)
●雑音下のききとりが苦手である
耳が2つあることで、音声に焦点が合い、方向がわかります。
だから、周囲がうるさい時でも「この人の声が聞きたいので集中する」ことができるのです。
片耳難聴の子どもたちのほとんどは、通常の学校に通っています。以前は言語発達や学習に影響はないとされ、相談できる機関もあまりありませんでした。しかし、最近わかってきたことは、大半の子どもには問題はないものの、一部の子どもたちは、その発達段階や環境からくる課題が表面化する場合があることです。例えば小中学校で私語の多い授業中は先生の声が聞きとりにくいことや、ペア学習やグループ学習で難聴側の友達とうまく対話できないことがあります。グループのおしゃべりで一部分が聞き取れずに、曖昧に笑って聞こえたふりをすることもよくあります。こうしたことが重なると友達との関係に心理的なしんどさを感じます。またいつもうるさい教室では、学習面に影響がでる例もあります。
社会人では、会社内の座席位置や工場の雑音の影響等で仕事に支障がでることもあります。にぎやかな居酒屋での大勢の会話になかなか入れない時も少なくありません。また成人後に片耳難聴になった人の中には、きこえの変化に慣れなかったり、耳鳴りやめまいを合併して様々な面で困難を感じたりする例も少なくありません。
また、それ以上に片耳難聴児者が悩んだり困ったりすることがあります。
●外見上はわからないため同じ片耳難聴のある人と出会いにくい
●同じ人であっても、問題なくきこえる場面ときこえにくい場面の差があるので、まわりの人にわかってもらいにくい
難聴側の聴力が高度以上であれば補聴器の効果がないためにつけていない人がほとんどです。したがって、片耳難聴者同士がすれ違っても、お互いに気がつくことはなく、自分以外の片耳難聴者に会ったことがない人はとても多いです。
外見上区別ができない違いを、周囲の人のほうが先に気がつくことはほぼありません。ということは、片耳難聴児者は、必要に応じて自分のきこえの特徴を、周囲の状況や相手によって柔軟に伝え、コミュニケーションがとりやすい関係性を自分からつくる必要があります。「最初の一歩は自分から」という姿勢は大切です。
こうした自己開示をするときに、大切なことは、それが自分のベネフィット(利益)になるかどうかを判断することです。例えば、「私は左耳が聞こえません」とだけ伝えると、相手は「かわいそうに」と受け取るだけかもしれません。だから、「(ランチで入った店内で)BGMがこっちから聞こえるから、私はこちらの席にすわってもいい?」と、具体的にどうしてほしいかを提案し、気持ちのよい会話ができるように自分から環境に働きかけていくことも必要になってきます。
補聴器・補聴援助機器について
片耳難聴児者にとって、役に立つ(かもしれない)補聴器や補聴援助機器についても、最近紹介される機会が増えてきています。(かもしれない)と書いたのは、前述したように片耳難聴児者の実態は様々であり、今の時点ではこうした機器を日常的に使用する人のほうが少ないからです。多くの場合は自費負担なので、値段と効果を比較して不要と判断する人も多いです。また、こうした機器の情報はまだまだ周知されていないということも課題です。
補聴器:片耳難聴側が軽中等度難聴であれば両耳聴効果が得られる場合が多い
骨伝導・軟骨伝導補聴器:片側外耳道閉鎖などの伝音難聴であれば両耳聴に有効な場合が多い
クロス補聴器:見かけは両側に補聴器のようなものをつける。難聴側のマイクから聴側の受信機に無線で送り、聞こえる側からの自然な音声に難聴側の音声を加えたもの 方向感の改善はできない
補聴援助機器:話者が送信機をつけ、片耳難聴児者は聞こえる側の耳に受信機をつける。雑音下で話者が一人のときには有効な場合が多い グループ会話で使うときは工夫が必要
人工内耳:難聴側の聴力がどれだけ重度でも、現在の日本では人工内耳は保険適応にはなっていない。外国では対象になっている国もある。
国内で「先進医療」として取り組んでいる病院もある
最後に
2019年に、片耳難聴の当事者団体「きこいろ」が立ち上がりました。「きこえかたはいろいろ」という意味からとった名前です。2025年現在で正会員(片耳難聴当事者)は約800名。「情報発信」「啓発活動」「コミュニティづくり」を3つの柱に活動をしています。
読みどころ満載、内容豊富なHPやSNS活動を継続し、全国で対面での交流会やレクチャーも企画しています。随時個別相談も受け付けています。是非一度HPをご覧ください。
また、以下に片耳難聴に関する書籍を挙げます。
「蝶の羽ばたき、その先へ」
森埜こみち 著 小峰書店 2019/10 1540円
思春期の片耳難聴の女子が主人公です。蝶の羽ばたきとは30dBのかすかな音。 周囲や自分のきこえに向き合い、また手話との出会いや成長も感じる優しい小説です。
(文責:高井小織 きこいろ副代表 京都光華女子大学)

