こんにちは。京都市聴覚言語障害センターです。今回は『補聴器を取り巻く現況がどのようなものなのか』についてお伝えします。
はじめに
補聴器は年間約50~60万台が出荷されており、その数は年々増加しています。
補聴器のタイプ別にみると、耳かけ型補聴器の使用比率が増加傾向にあるのがわかります。
ジャパントラックとは
難聴者や補聴器装用者がどのような状況にあるのかを調べるために、日本国内で『ジャパントラック』という大規模な実情調査が行われました。1回目の2012年を機に、2015年、2018年とこれまで3回行われました。
ジャパントラックの結果の一部は、ヨーロッパで行われた「ユーロトラック」の参加国と比較することができます。諸外国の調査結果と比較することで、日本における難聴者や補聴器装用者を取り巻く現況や課題が見えてきました。
難聴者の割合
まず、人口における難聴者が占める割合についてです。一般的に「何かしらの聞こえにくさがある人の割合」は、約10%前後と言われています。ジャパントラック、ユーロトラックの結果も同様の数値を示しており、どの国も難聴者率に大きな違いはありません。
補聴器の使用率
次に補聴器の使用率についてです。先ほどの『各国における難聴者率』に大きな違いはありませんでしたが、『難聴の自覚がある人のうち、補聴器を使っている人の割合』について調べると、下図の通り大きな違いがあります。
欧米では、60歳代で補聴器をつける方が多いのに対し、日本における補聴器装用平均開始年齢は70歳代となっています。また、WHO(世界保健機関)は、聴力レベルが41㏈から補聴器装用を推奨しているのに対し、日本では50㏈を超えてからつける人が多いのが現状です。
補聴器装用に関する満足度
下図は「補聴器装用に対する満足度」について調べた結果です。
日本の補聴器装用者における満足度が低い要因として、下記のことが考えられます。
①日本は補聴器の装用開始年齢が遅い
諸外国と日本の補聴器装用開始年齢には約10年の開きがあります。一般的に補聴器は、年齢があがるほど、聴力が悪くなるほど補聴器の聞こえに慣れにくくなるため、満足度にも大きく影響していると考えられます。
②熟練の補聴器技能者が少ない
日本には約6000店の補聴器取扱い店がありますが、このうち補聴器の専門資格である認定補聴器技能者が常駐している店は3割程度です。補聴器の効果を得るためには、個々の聴力に応じた補聴器の調整や耳型にフィットした耳栓の作成など、販売担当者の知識や技術力が重要になります。
③補聴器購入後の来店回数が少ない
補聴器は眼鏡と異なり、買ってすぐによく聞こえるようになるわけではありません。補聴器の聞こえに慣れるためには、長い方は数か月かかると言われています。初めは違和感があっても、根気よく補聴器をつけて慣れていくことが大切です。さらに、購入後数回は補聴器店に通い、音量や音質などの再調整を重ねることが必要になります。日本では、買った後に一度もお店に来店しない方も多数いますが、補聴器は買って終わりではなく、買った後の付き合い方が非常に重要です。
④補聴器に対する適切な理解が不足している
補聴器は決して万能ではありません。相手の話し方や話す環境によって、聞こえ方が大きく左右されます。補聴器をつけたからといって、決して難聴が治るわけではないのです。補聴器のできること・できないことをきちんと理解した上で付き合うことが大切です。
補聴器の両耳装用率
下図は、補聴器を両耳につけている人が各国でどれくらいいるのかを調べた結果です。
両耳に補聴器をつけると、個人差はありますが下記のような効果が期待できます。
①片耳で聞くより両耳で聞く方が音を大きく感じる。
②音の方向を把握できる。
③音が立体的に聞こえる。
④聞きたい音とそれ以外の雑音を区別しやすくなる。
⑤左右どちら側から話しかけられても聞きやすい。
ただ一方で、片耳装用と比べて圧迫感や閉塞感を強く感じる場合があったり、聴力の程度によっては両耳装用が適さない場合もあります。
さいごに
いかがでしたか?具体的な数値やグラフで見ることで、難聴者や補聴器装用者を取り巻く状況や、社会が抱える課題を客観的に把握することができますね。きこえにくい方々がより暮らしやすい社会を実現するためにジャパントラックの結果を活用できたら素晴らしいですね。